日常と非日常に彩りがほしい

趣味関連のおはなし

Step BD しあわせのおすそわけ

昨年の夏コミの東京大学きらら同好会合同誌Micare vol.2に寄稿したSSを公開します。「スロウスタート×献血」が題材です。初めて書いた二次創作でぎこちなさもありますが、原作の好きなところを自分なりに詰め込んだので読んでいただけると嬉しいです。
 
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Step BD しあわせのおすそわけ
 
 
  「花名、400だったの?」
栄依子 「でも1年生って200だけなんじゃ」
たまて 「もしかしてはなちゃん、年上なんですか!?」
血の気が引いていくのがわかる。これ以上は隠せない。
花名  「あっあのね、わたし本当は 浪人してて……」
たまて 「なるほど〜それで人より役に立ってるなんて偉い!偉いですよはなちゃん!」
  「ん。浪人は社会貢献」
花名  「よかった、浪人は悪いことじゃないんだね」
あはははははは……。
 
ううぅまた自分勝手な夢を……。
 
――午後の教室――
 
榎並  「えー、昨日話したように午後は授業の代わりに献血の時間になる。参加しない人と終わった人はいつも通り文化祭準備か自習をすること。献血できる条件はプリントに書いてある通りだが、16歳になってる人は積極的に協力してほしい。菓子も貰えるし案外いいもんだぞ。何か質問はあるか?」
たまて 「はいす!せんせーさんも参加するんですか?」
榎並  「いや、今朝喉が痛くて風邪薬を飲んだんだがそれが引っかかるらしい」
栄依子 「えー、先生が針怖がるところ見たかったな〜」
榎並  「怖くねえよ、さっさと準備しろ」
 
  「ふふ。えーこの生き血、欲しい……」
呟きの直後、バタンと椅子が倒れるのが聞こえた。
  「せんせー、つばきちが鼻血出して倒れました〜」
榎並  「おう、誰か保健室に連れていってやれ」
 
――準備中――
 
栄依子 「かむは誕生日まだだからできないわね」
  「ん、お菓子もらえなくて残念。生徒会室で待ってる」
  「冠ちゃんは小さくてかわいいから問題ないよ〜。いつでも陸上部で待ってるからね」
真秀  「こじつけて勧誘するのやめなさい。冠ちゃん困ってるでしょ!」
 
たまて 「実はですね〜、わたし夏に一度献血しておりまして、今日はまだできないみたいなんですよう」
花名  「ええっ!?そうだったの?」
栄依子 「へえ、よくやろうと思ったわね」
たまて 「いやあ、東京のイベ」
榎並  「おい、そろそろうちのクラスの番だ。さっさと移動しろ」
たまて 「それではこの話はまた後で〜」
 
――献血バスの中へ――
 
問診は難なくクリア!
心拍数の測り直しで遅くなっちゃった(何もしてないのに107って……)。
血液検査は注射針じゃなくて中指をチクッと刺すだけでそんなに痛くなかったな。技術の進歩ってすごい!
採血のベッドは靴のまま。なるほど、地震とかが来てもすぐ逃げられるようになんだね。
 

 
花名  「あの、年齢で採血の量って違うんですか?」
看護師 「はい。体重にもよりますが女性ですと16~17歳は200 mL、18歳以上が400 mLになりますね」
よかった、みんなと一緒だから歳はバレなそう。血を抜かれるのってなんだか不思議な感覚。
次は栄依子ちゃんの番だ。栄依子ちゃんでもやっぱり痛がるんだなあ。
ん?もしかしてこれもイベントスチル!?
 
――献血終了――
 
針を刺すときと抜くときは痛かったけど、それ以外は意外と大丈夫だったなあ。
あれっもしかして、わたしの血が受験生に使われたら浪人の病が移っちゃうんじゃ。わたしのせいで浪人する羽目になったら……。オプオプオプオプオプ
栄依子 「どうしたの?具合悪い?」
花名  「ううん。えっとね、わたし健康的!ってほどでもないし体力皆無だし、今更だけど献血してよかったのかな?」
栄依子  「花名」
何でも受け入れてくれそうな優しい表情で栄依子ちゃんは答えてくれた。
栄依子 「花名は今高校生活楽しい?」
花名  「もちろん楽しいよ。みんなと一緒でしあわせだよ」
栄依子 「身体は強くなくたって献血できるくらいには健康なんだから大丈夫よ。だったら、病気の人を助けて、そのしあわせを分けてあげたって思えばいいんじゃない?」
花名 「しあわせをちょっぴりおすそわけ、か……」
そうだよね、わたし人助けしたんだよね。これでいいんだよね……。
 
――生徒会室へ――
 
栄依子 「かむー、お菓子たくさんもらってきたわよー」
  「ん。えーこ、花名、おかえり」
花名  「ところで先輩たちはどうして倒れてるんですか?」
  「私は献血した後でちょっと立ちくらみが……」
  「3年は受験生だから関係ないけど」
  「つっくんはいつもの不摂生よ。これでも食べて」
たまて 「会長さんはどちらかというと輸血される側ですよねえ」
 
  「一之瀬さんは大丈夫だった?」
花名  「意外と平気でした。むしろお菓子もジュースももらえて得した気分です」
栄依子 「こんなに待遇いいとは思ってなかったわよね」
  「私も年齢と体重さえ足りていれば……」
栄依子 「アハ。たまのを少し分けてあげたいわね」
たまて 「プキー!なんてこと言うんですか、えーこちゃん」
 
栄依子 「そう言えばたまはいつ献血してたの?」
たまて 「夏休みに東京のイベントに行ったのですが、そこで今日みたいに献血車が来ておりまして。限定の景品がもらえるってことでそれに釣られたんですけど、やってみて正解でしたね」
花名  「へえ、そんなのがあったんだ」
栄依子 「よくそれで勇気出たわね」
たまて 「若者ってだけでチヤホヤしてもらえますし、たまには悪くないですよね!たまだけに」
(スルー)
たまて 「その時看護師さんに聞いたのですが、世の中には各地で献血ルーム巡りをしている人もいるらしいですねえ」
栄依子 「変わった趣味の人もいるのね」
  「ん。百人百様」
たまて 「そういう人にとってはカフェ巡り感覚だそうで、一部の人は “血塗り”と呼んでるとか……」
栄依子 「事件性を感じるわね」
  「“塗り”はどこから来たのかしら?」
  「あ、でも“ちぬり”って平仮名で書くとちょっとかわいくない?」
血塗りと聞いて想像するもの……
血溜まり→殺人事件
→→殺人犯が献血車に立て籠って警察と銃撃戦→集めた血液が被弾してあたり一面血の海に……。
花名  「ヒィッッッ!」
たまて 「はなちゃんはまーた何か物騒な想像をしてるんですか」